医療法人 東永内科リウマチ科

大阪市東淀川区の 内科,リウマチ科(リウマチ,膠原病,骨粗鬆症)
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リウマチのお話その4


 
関節リウマチのお話その4 関節超音波エコー検査のお話

 
関節リウマチの治療は革新的に進歩しており、めざましい発展を遂げています。一方で関節リウマチの診断は非典型例では難しく、関節リウマチと診断された後に約10%の人に診断が翻ったり反対にリウマチでは無いと診断された人も約10%が後にリウマチと診断される事があります。
 

『関節リウマチのお話その1』でお話しました様に、関節リウマチの診断基準は存在しますが、血液検査で異常が出ない場合や、触診やレントゲン、MRI画像検査では解らない関節炎を鑑別診断するのに苦労する事がしばしばあります。こういった場合に関節エコーは威力を発揮します。


早期診断だけでは無く、関節リウマチ治療中の患者さんにも関節エコー検査は有効です。


関節リウマチの実臨床において血液検査や触診、患者さんの自覚症状では寛解しているにも関わらず、骨破壊が進行する人や、逆に血液検査に炎症反応を認めても骨破壊が進まない人に出くわす事がしばしばあり、診断治療に苦慮する場合があります。具体例を挙げてみますと・・・。



(1)血液検査に異常無し、寛解中リウマチ患者さん    (2)血液検査で軽度炎症反応が残る患者さん
 
◎『症状的』に寛解しているが、関節『構造的』には寛解しておらず(⇒骨破壊が進行している)、本来『治療を強化すべき状態』を見落としてしまう場合(上記(1)の様な症例)。

◎リウマチ以外での炎症反応や、関節の使い過ぎに因る痛みや腫れを『リウマチの悪化が原因』と間違った診断により、薬が減らせない(時には薬を増やしてしまう)場合(上記(2)の様な症例)

これらの診断に関節エコーが大変役立つ事があります。

上記(1)の様に、関節所見から臨床的寛解であっても従来のリウマチ評価方法では43に骨破壊を引き起こす炎症が存在すると言われています。この炎症を放置する事で関節破壊の危険度が12倍上昇すると報告されています。

では関節エコー検査のメリットとは?
 

診察室で簡単に施行でき、被爆や侵襲なく、MRI検査(保険診療3割負担で10,000円程度)と比較し医療コストも安価(3割負担で1,000円程度)、であり的確に診断できます。また患者さんと向き合って、解剖や病状を解説しながら検査を進めるので、患者さんへの説明と病態を理解して頂くのに大変有効と言えます。


日本リウマチ学会推奨の関節エコー検査機器



 
オリンパス GEヘルスケア 日立アロカ Canon (当院採用)
              
欠点をあげますと
(1)検者間でばらつきがある(経験数にて診断にバラつきがある)。
(2)検査機器に依って画像解析度に優劣が多少ある(高価な機器程画像が鮮明である)。
(3)関節病変の評価方法が標準化、統一化されていない。滑液滑膜病変の鑑別が難しい。
(4)生理的な骨栄養血管のバリエーション、正常血管の個人差、病的血管の鑑別は経験数に依存する。
(5)関節エコーの技術の向上、習得には講習会の参加やハンズオンを含めた学習時間を要する。
(6)室温が低かったり検査用のジェルが冷たくても炎症シグナルは低下し、過小評価と成り易い。
(7)大関節(股関節、膝関節)は炎症シグナルが拾い難く評価が難しい。などがあげられます。



しかし実臨床では欠点よりも利点が大きく上回り、検査機器の精度、正常異常の鑑別も経験を積むことで十分診療に役立つと言えます。欧米では関節エコーはリウマチ医の聴診器と言われています。評価方法、標準化統一化されていない問題も日本リウマチ学会が関節超音波標準化委員会を設立し、講習会、勉強会、学術集会、ガイドラインの策定を通して関節エコーの標準化、統一化を行っています。
 

標準化された関節エコーの評価方法

 

 
 
標準化された関節エコーの評価方法
 

関節リウマチ患者さんの滑膜切除術前の関節エコーに因る炎症評価診断と、実際に切除した滑膜炎の病理組織検査(顕微鏡に因る正確な診断)とは同じ結果が示され、関節エコー所見が関節破壊の危険予測に有効であると多くの論文が報告しています。

標準化された関節エコーの評価方法

ところで、欧米では関節エコーの普及率は95%以上で、リウマチ医の聴診器と言われています。一方で欧米に比して日本の関節リウマチエコーの普及率はたったの10%にも足らず、欧米と比較して10年以上遅れていると言われており、関節エコー診療の普及と向上が急務と言えます。しかし、なかなか日本で普及しないのは何故でしょうか・・?それは関節リウマチの診断は触診とレントゲン検査で十分という概念が未だ残っているからです。

関節エコーの先を行く欧州でも10年前は日本と全く同じ事が起きていました。現在欧州の関節エコーの最も権威の一人であるGrassi博士は昨年2014年の医学論文で10年前のエコーが欧州で普及する前のお話を当時の関節エコーに対する偏見に皮肉を交えて、昔の物語風に伝えています。(Clin Exp Rheumatol. 2014 Jan-Feb;32(1 Suppl 80):S7-11.から抜粋)


『古代の呪い』の例えはあまり宜しく無い表現ですが、ここで言う『古代の呪い』とは従来の触診やレントゲン検査に拘り、他の新しい手技に目を向けない事を言っています。確かに触診とレントゲンはリウマチ診療の基本中の基本であり、大変重要でありますが、では実際、触診と関節エコー、レントゲンと関節エコーどっちが優れているのでしょうか?

ここでいくつか文献をご紹介しますと・・・

ベテラン関節リウマチ医 VS ベテラン関節エコーソノグラファー



4関節以下の場合は触診と関節エコーの診断は、ほぼ合致しましたが・・・。




しかし、5関節以上の多関節炎の場合、触診に比較して関節エコーの診断力が圧倒的に勝る結果に!
今度は・・・


エコーで既に診断がついている関節をベテラン医師が触診すると



関節エコーにて異常無しの42関節(20%)を触診にて関節リウマチと診断!? 触診による過大診断の可能性が・・・。
反対に、触診で『異常無し』、もしくは腫れの無い疼痛関節を 『使い痛み』と診断した後に、関節にエコーを施行しますと・・・



触診で『腫れも痛みも無い』、正常と診断した関節の13%、腫れ無く、痛みだけの『使い痛み』と診断した関節の36%にエコーリウマチが判明・・・・13~36%触診依る過小診断の可能性が・・・  この論文でもやはり関節エコーに軍配と報告。

 

では、レントゲンに依る関節リウマチ診断と、関節エコーに依る診断ではどちらが勝るか・・・


ベテランリウマチ診断医 VS ベテラン関節エコーソノグラファー

(Wakefield et al AR 2000より改編)



100人の関節リウマチ患者さんの骨びらんを、ベテランリウマチ医はX線(レントゲン)で32関節を診断できましたが、関節エコーではその4倍の127関節の骨びらんを診断!!


 


やはりここでも関節リウマチの骨びらん変化をレントゲン診断よりも、関節エコー検査に軍配と報告しています。



(Arhritis Care & Research vol.65,june2013,pp 896-902より改編)





この文献でも関節リウマチの骨破壊進行の一番の危険因子は関節エコー上の所見として①骨びらん有りで×3倍 ②炎症シグナル検出で×2.5倍、③滑膜肥厚で×1.4倍であり、関節エコー上で炎症シグナルと骨びらんの診断が大変重要と結論づけています。



関節超音波いつ行う?今でしょ!!(もう古いですが…。)

と言う事で、東永内科リウマチ科に来院された患者様で関節エコーが有用であった患者さんの例の一部を御紹介致します。

 

症例(1)
32歳男性。半年前から両手指、手関節の疼痛を自覚。近医受診され血液検査にてリウマチ因子抗CCP抗体共に陽性、CRPと血沈正常、関節腫脹が無い為、関節リウマチの予備軍と診断。痛み止めで経過見るも改善しない為、当院来院。関節エコーで腫れの無い関節を観察。
エコー上右手指2番目の付け根を含め3関節に滑膜肥厚を顕著に認め(矢印・緑)、炎症シグナルも検出(矢印・赤)。滑膜炎の酵素MMP-3陽性から関節リウマチと確定診断。メソトレキセレート(MTX)8mg開始。

症例(1)

(治療前後の右手指の2番目の付け根の関節エコー所見)MTX8mg/週から治療開始。肝障害の為、治療薬変更⇒アザルフィジン®単剤にて短期間で治療奏功、炎症シグナルほぼ消失(矢印・青)し滑膜肥厚も改善(矢印・紫)。現在も完全寛解中。

 

症例(2)
66歳女性。1年以上前から手指の多関節痛と関節腫脹を自覚。近医に受診するも血液検査にてリウマチ因子陰性、抗CCP抗体陰性。レントゲン異常無し。使い過ぎの痛みと診断され経過観察するも改善せず、関節リウマチを心配され当院に来院される。疼痛関節部位を観察すると・・・。

症例(2)

関節リウマチを疑うも滑膜肥厚は一切認めず(矢印・青)、炎症シグナルも検出せず(矢印・赤)、手指の伸筋腱の周囲が黒く抜けており(矢印・緑)、また関節周囲に骨棘形成(矢印・紫)も認める。
診断 滑液庖炎+変形性指関節症治療-消炎剤の内服と外用。関節酷使の制限指導。

 

症例(3)
46歳男性。他院にて関節リウマチ治療中。ステロイド10mg+メソトレキセレート8mg/週+リマチル200mg内服。右手親指の付け根の痛みを自覚し関節リウマチの増悪を心配され当院に来院。血液検査では血沈の亢進を認める。関節エコーは以下の通り、手指関節(矢印・青)手首関節の伸筋腱群(矢印・緑)を含め滑膜肥厚、炎症シグナル認めず。左指母指の屈筋腱のみ炎症シグナル検出(矢印・赤)

症例(3)

診断名 関節リウマチ寛解+母指屈筋腱々鞘炎。治療はステロイド減量し整形外科にて関節注入

 

症例(4)
51歳女性。軽症の強皮症にて冬期を中心にレイノー症状に対し血管拡張剤のみで経過観察中。本年1月末頃から指全体の強張りと浮腫みが出現。強皮症による末梢血管炎と診断しステロイド5mg処方。病状一旦軽快するも2月中旬から再び、両手関節、両手指全体に顕著な浮腫みと疼痛が出現。血液炎症マーカーのCRP7.54mg/dlと高値。リウマチ因子抗CCP抗体共に陰性。病状経過からは、関節リウマチの可能性は低く、強皮症に因る(膠原病由来の)血管炎と考えましたが、鑑別診断の為、関節エコー検査施行。結果は・・・

症例(5)

広範囲の関節に滑膜肥厚と炎症シグナルを強く認め、手首の腱鞘滑膜炎も広範囲に認める


診断(×膠原病血管炎⇒◎関節滑膜炎)強皮症合併+高活動性血清陰性型関節リウマチ治療 疼痛自制不可の為ステロイド10mgへ増量 メソトレキセレート8mg早期に開始。高活動性の為、淀川キリスト教病院リウマチ膠原病内科に入院にてバイオ製剤導入。

 


上記はほんの一部ではありますが、関節エコーにて診断、治療指針が確定した症例を多数診る事が多くなりました。
しかし!!関節エコー検査は絶対的な存在では無くあくまで一つの画像ツールであり一つの診療アイテムです。やはり診断と治療の基本はまず、詳しい問診⇒細やかな触診⇒血液所見(CRPや血沈、RF、抗CCP抗体)⇒画像所見(レントゲンと関節エコー)これらを融合させて初めて診断と治療指針が決定します。



これからも関節エコーを含めた関節リウマチの画像診断も進歩、普及して行くでしょう。早期発見、早期治療開始、またバイオ製剤の効果判定に、寛解後の治療薬の減量、中止に関節エコー検査は必要不可欠となるでしょう。『リウマチ医の聴診器』としてこれから関節エコーを実践し、少しでも皆様のお役に立てればと思います。

この続きは、新フリーページ、『関節エコー総集編と当院の取り組み』に掲載しております(2月掲載予定)。是非ご参照ください。日本リウマチ学会 ソノグラファーとしての取り組み8カ条と、関節エコーの診断力の高さをご紹介致します!!


東永内科リウマチ科

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