医療法人 東永内科リウマチ科

大阪市東淀川区の 内科,リウマチ科(リウマチ,膠原病,骨粗鬆症)
医療法人 東永内科リウマチ科

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膠原病のお話前編


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膠原病に共通する3つの疾患

東永内科リウマチ科流 膠原病のお話 前編


当院の専門分野でもあります、膠原病についてのお話です。前編はリウマチ=膠原病?何で膠原の病なの?病名の由来と、膠原病のそれぞれの種類や違いについての東永内科リウマチ科流でのお話です。そもそも膠原病とは??何故に膠原??

『こうげん病』と言いますと、山に登って低酸素になる病気?⇒『高原病』と間違われ易いですが、

こうげんは、細胞と細胞結合させる『膠 にかわ』の異常が『原』因で起こる『病』が膠原病の由来と言われています。従来人間の病は、細胞が病み⇒組織が病み⇒臓器が病み⇒人が病むと考えられていました。しかし細胞と細胞、組織と組織、臓器と臓器の結合部分=接着部分⇒ くっつけるにかわ部分⇒である膠原線維に炎症を来す病気を発見し、1942年に初めて『膠原病』と提唱したのがアメリカの病理学者ポール クレンぺラ―博士でした。

Dr. Paul Klemperer (1887-1964)
(ポール・クレンペラー)


1926年から1955まで、マウントサイナイ病院の病理学部長を務め、病理学的解剖の重要性を唱え、1942年には膠原病を提唱しました。

膠原(collagen)線維=コラーゲン線維は美容用化粧品で言う、皮膚の健康と潤いを保つ役割のコラーゲンと同じものです。コラーゲンは、結合組織内に含まれている線維性のタンパク質で、細胞と細胞を結びつける働きがあります。臓器などを形づくる役目もあり、クレンぺラ―博士はこれらの炎症により『特異的な病』が発症すると唱えました。この皮膚の膠原(コラーゲン)線維が炎症を起こし、皮膚の潤いが無くなり、皮膚が硬くなるコラーゲン線維病強皮症であります。

強皮症は、膠原病の語源の典型的疾患と言われています。これが皮膚以外に関節や肺 血管、腎臓 肝臓等の全身の組織の中の結合部分 ⇒「膠原線維」という結合組織に病変が生じた疾患のグループを『膠原病』と定義されたのです!!

クレンぺラー博士はさらに人間の細胞同士を結びつけている結合組織の(膠原線維)や血管を研究してみたところ、共通している組織変性と壊死性の病変があることを突き止めました。この組織病変を『フィブリノイド変性』と呼ぶようになりました。ちょっと難しいですが・・・

残念ながら、膠原病という考えが提唱された当時は、膠原(コラーゲン)線維やフィブリノイド変性等はアメリカの医学会からもまったく理解されませんでした。しかし医学研究の進歩や電子顕微鏡が普及したおかげで、この病気の『フィブリノイド変性』の存在が認められる共に、様々なことがわかってきました。しかし膠原病が提唱される中で・・・

「膠原線維に異常が見られないものがある」

「結合組織の以外の成分の異常でも起こる」

「フィブリノイド変性は膠原病だけに限ったものではない」

このようなことから、膠原病という名前は不適切であるとされ、欧米では、血管を含む結合組織に病変が起こる病気として『結合組織疾患』と呼ばれています。ただし、日本ではまだ膠原病の名で呼ばれることがほとんどです。 また共通する病態として、『リウマチのお話のその1』で挙げた様に自分の敵と味方の区別判断が出来なくなり、自分自身を自分の免疫細胞に因って攻撃してしまう自己免疫異常を来す病気を『自己免疫疾患』とも呼ばれています。

自分自身の臓器を、自分の免疫細胞が間違って攻撃してしまう病気の中で『関節リウマチ』が最も有名ですが、骨や関節、筋肉などの運動器疾患に限っては『リウマチ性疾患』と提唱する考えもあり、病気の呼び方や区別がよりややこしく、複雑化した状態なってきています。

以上を取り敢えずまとめますと・・・・ 膠原病の概念とは・・・


膠原病に共通する3つの疾患

『自己免疫疾患』 『リウマチ性疾患』 『結合組織疾患』 膠原病は、これら3疾患の特徴をもち、下記の中心部分の病気の範囲を膠原病として認識されています。 中心以外の病気には以下の様な疾患が挙げられます。

この『結合組織疾患』『自己免疫疾患』『リウマチ性疾患』の3つの要素を兼ね備えたものを膠原病と提唱されています。
主な膠原病の疾患(略語)と簡単な特徴を、だらだらっと20種程羅列しますと・・・

古典的膠原病
  関節リウマチ (RA) 最も患者さんの多い、関節疾患。変形と骨破壊を来す疾患
  全身性エリテマトーデス (SLE) 若い女性に多い全身の紅斑症 腎臓病が問題
  強皮症 全身皮膚が硬くなる膠原病 間質性肺炎の合併が問題となります
  皮膚筋炎 (DM) / 多発性筋炎 (PM) 皮膚や筋肉、肺に炎症を起こす病気
  結節性多発動脈炎 (PN)  臓器不全、フィブリノイド壊死を引き起こす重症疾患
  混合性結合組織病 (MCTD) 比較的軽症の膠原病が集合した疾患
  CREST症候群 比較的軽症の限局的強皮症にレイノーや逆流性食道炎を合併
その他の膠原病・膠原病類縁疾患
  シェーグレン症候群 (SjS)  RAの次に多い疾患。唾液腺、涙腺を主に罹患
  顕微鏡的多発血管炎 (MPA)  急性腎不全や臓器障害を来す重症疾患
  ウェゲナー肉芽腫(WG)  気管、軟骨、腎臓に炎症を引き起こす疾患
  チャーグ・ストラウス症候群(CSS ) 好酸球に因る喘息と神経血管炎の複合症
  過敏性血管炎 局所的な血管炎で膠原病の中では軽症
  ベーチェット病 口内炎、ぶどう膜炎、皮膚症状、性器潰瘍を来す疾患
  コーガン症候群 難聴、耳鳴り、めまいに眼の炎症を引き起こす疾患
  RS3PE症候群 関節リウマチに類似した病態に、両手足の浮腫を来す疾患
  側頭動脈炎 (TA) 側頭部の限局的血管炎、治療が遅れると失明する危険あり
  成人スティル病 (AOSD) 高熱、皮疹、肝機能障害を来す全身炎症疾患
  リウマチ性多発筋痛症 (PMR) 高齢者に多い、腕や足の筋肉の大血管炎
  抗リン脂質抗体症候群(APS) 習慣性流産と臓器梗塞を起こす可能性のある疾患
  IgG4関連疾患 本邦から提唱されたIgG4陽性の免疫細胞が臓器浸潤を来す疾患

これら羅列した疾病を区分けしますと、①登場する免疫細胞の種類、②標的とされる組織や臓器、自己抗体の種類、③太い血管~顕微鏡レベルまでの血管のサイズと範囲と動脈静脈、これらの3つ依って膠原病は区分けされます。



①まずは免疫細胞の種類に由る疾患の分類


より白血球の仲間たちの働きを詳しく解説しますと・・・。

それぞれのリンパ球が反乱を起こして病的行動を起こすと

Th1⇒ ヘルパーT細胞 攻撃的なタカ派のリンパ球の反乱

タカ派のヘルパーT細胞系の病気は、発熱や腫れ痛み、臓器の炎症、血液異常が派手に出現します。 典型疾患は関節リウマチや多発性筋炎が有名です。

Th2⇒サプレッサーT細胞  ヘルパー細胞、キラーT細胞などの攻撃を抑制する ハト派のリンパ球の反乱

ハト派のサプレッサーT細胞が暴走すると炎症のはっきりしない、地味な紅斑などの皮膚症状、蛋白尿の腎病変、無菌性髄膜炎や精神系の異常が予兆無く出現します。平和の象徴のハトが異常行動を起こすと、ある意味では達が悪い病気至るといえます。 典型例では全身性エリテマトーデス(SLE)が有名です。

その他それぞれ特性の異なる白血球が反乱行動を起こすと異なった病状の以下の膠原病が発症します。

膠原病に因って症状や病態、重症度が異なるのは、この様に反乱を引き起こすリンパ球や免疫細胞の性質の違いに依るものと言えます。


②標的とされる組織や臓器、特異抗体に由る分類

免疫細胞であるBリンパ細胞が本来ウイルスや細菌、ガン細胞等の外敵をやっつける為に産生する抗体が免疫の異常に因り敵と味方と間違えての自分の肝臓や腎臓、肺などの臓器を攻撃してしまいます。この抗体の標的とする組織や臓器に依り病気が分類されます。



微熱や全身倦怠感、関節痛、脱毛、レイノー症状など膠原病を疑う場合はこれらの特異抗体を検査する事で膠原病の可能性を判定します。しかし抗体が出現したからといった必ず膠原病が発症するとは限らず、また特異抗体が陰性でも膠原病になる事もしばしば見受けられ、これが膠原病の診断の難しい所です。

 

③太い血管~顕微鏡レベルまで 血管のサイズと範囲に由る血管炎の分類

 

炎症血管のサイズが太い血管か小さい血管か、広範囲か限局的か、動脈静脈かに依り病気が区分けされます。これは1994年に策定されたチャペルヒル分類ですが、2012年に新しく血管に沈着する免疫物質の違いをさらに細かく区分26種類もの病気に分類提唱しています。

この分類では横文字の病名が数多く見られますが、例えば、Behcet(ベーチェット)病はトルコ人の医学者ベーチェット博士が命名し、Henoch-Schonlein(ヘノッホ‐シェーンライン)紫斑病も病気を発見したドイツの2人の医学者が自分の名前で命名。日本の芸能人も罹患している有名なシェ―グレン症候群( 膠原病関連血管炎に含まれます )もノルウェーの眼科医のヘンリック・シェ―グレン博士が命名しました。Churg-Strauss(チャ―グ ストラウス)症候群は上述の膠原病の生みの親『ポール クレンぺラ―博士 』の弟子に当たるポーランド出身のチャ―グ医師ストラウス医師が命名。Wegener(ウェゲナ―)肉芽腫症ドイツのウェゲナ―博士が命名しています。川崎病、高安動脈炎、こちらは日本の医学者で、日本赤十字社 小児科医の川崎富作先生と、金沢大学の眼科医 高安右人博士命名。『 Kawasaki disease 』『Takayasu's arteritis』として世界の医学の教科書に掲載されています。この様に病気を発見した人由来の病名が、このチャペルヒル分類の中に数多く記載されています。

ウェゲナ―博士 高安右人博士 川崎富作先生

しかし、人の名前で○○病、☆☆症候群と言われても病気自体がピンと来ないので、個人名の病名が病態を記した病名に変わりつつあります。Henoch-Schonlein(ヘノッホ‐シェーンライン)紫斑病⇒アレルギー性紫斑病 Wegener(ウェゲナ―)肉芽腫症⇒多発血管炎性肉芽腫症に、Churg-Strauss(チャ―グ ストラウス)症候群好酸球性多発血管炎性肉芽腫症・・・と解り易く?(反って長ったらしくごちゃごちゃした感じがしますが・・・)命名変更されました。

特にウェゲナ―博士は旧ナチスドイツに加担した医学博士として、現在でもユダヤ人団体から敬遠されており、今回人名由来の病名が削除され新規病名に変更されたのも、政治的背景が原因と言われています。一方、日本の医学博士が発見した高安病と、川崎病はそのまま残されています。

 


上記の3つの区分けを統合してまとめますと…
 登場する免疫細胞の種類(T細胞かB細胞か、好中級かマクロファージか線維芽細胞か)
 免疫細胞の強さ、(ヘルパーT細胞か、サプレッサーT細胞か)
 特異的な自己抗体の力価や強さ(攻撃性の高い抗体か、おとなしい抗体か)
 攻撃する臓器の範囲 (全身の臓器か、一部の臓器か)
 血管のサイズ(太い血管か小血管か)と血管の炎症範囲(広範囲か局所範囲か)動脈か静脈か。
 病状が急速に進行するか、ゆっくり経過するか、自然に軽快したり軽症程度の悪化を繰り返すか。
これらの①~⑥の組合せから膠原病は区分けされます。また同じ膠原病の中でも軽症から重症まで病状がピンからキリまであるのは、これら組み合わせが患者さんに依って異なる為と言えます。

 

おとなしい免疫細胞とおとなしい免疫抗体が、ほんの一部の臓器の一部の血管だけに炎症を起こし、 ゆっくり経過する膠原病は軽症でありますし、激しいリンパ球と強力な抗体が、広範囲の血管と全身の臓器に急速に炎症を引き起こす膠原病は当然重症と言えます。

(和田アキコさんもシェ―グレン症候群を公表) (フィブリノイド壊死↑で血管梗塞⇒多臓器不全症)

例えば、あまり悪さをしないBリンパ球が、おとなしい抗SS-A抗体を少しだけ作って、唾液腺と涙腺だけにゆっくり炎症を起こすシェ―グレン症候群平均寿命以上に長生きしうる軽症疾患ですし、逆に激しいタカ派ヘルパーTリンパ細胞と、好中球を激しく興奮させる、ANCA抗体を超大量に産生するB細胞によって、全身の臓器小動脈を広範囲に且つ、急速炎症フィブリノイド壊死を引き起こす、急速進行性の顕微鏡的多発性血管炎多臓器不全に因り短期で死に至る可能性のある重症疾患です。

軽症の患者さんは特に治療を必要としない事も多く、一方で重症患者さんはかなり濃厚で長期、多岐に渡る継続した治療が必要となります。病気の重症度は患者さんにおいては様々であり、千差万別です。その理由として挙げられるのが、リンパ球を含めた免疫細胞の遺伝的素因(暴れる免疫細胞の遺伝子多型を持つかおとなしい免疫細胞の遺伝子多型を持つか)の違いであります。最先端医学に依る遺伝子の解明により、膠原病の重症化の予見、治療効果の予測がかなり出来るようになってきました。

しかし、実際に臨床の現場では、暴れる免疫細胞の遺伝子素因と、強力な抗体を多くもっているにも関わらず、病気を発症しない方もおられれば、おとなしいはずの免疫細胞と、特異的な抗体が出ないにも関わらず、別のルートから免疫異常が出現し、予測以上に重症化される方もおられます。

その理由としましては、免疫細胞の遺伝的素因だけでは無く、心身的、身体的ストレスや疲労、喫煙や ウイルス感染など、環境的要因も大きく関与していると言われています。

多くの膠原病患者さんは軽症から中等症の患者さんが殆どです。上記のシェ―グレン症候群を公表した和田アキコさん以外にも、芸能人やスポーツ選手にも膠原病と共存し活躍している方が多くおられます。

菊池桃子さん ⇒ シェ―グレン症候群 竹内 択さん ⇒ チャ―グ ストラウス症候群
EXILEのMATSUさん ⇒ ベーチェット病 間下このみさん ⇒ 抗リン脂質抗体症候群
菊池桃子さん 竹内 択さん EXILEのMATSUさん 間下このみさん 
大学客員教授も務め活躍  オリンピックで銅メダル獲得 日本の代表的ダンサー 流産を乗り越え子供を出産

膠原病は難しくてわかりにくいイメージがありますが、『どういった免疫細胞』が、『どれぐらいの規模』で、『どの臓器』に、『どれくらいのスピードで進行』しているかを知っておく事で、その病気に対する治療法や注意点にも自ずと理解できると思われます。ちょっと難しかったかもしれませんが、東永内科リウマチ科流に膠原病の概念を解説致しました。

 

次回後編は膠原病の治療と最新の話題を含めた内容をお伝えする予定であります。乞う、ご期待を!!